上智大学 文学部 英文学科 レポート等特定課題 2019年 小論文 解答例

■設問

英米文学作品をひとつ読み、特に印象に残った箇所を取り上げて、その理由を述べなさい。

 

■ 答案構成

議論の整理→「星を継ぐもの」の概要と魅力

問題発見→不要

論証→不要

解決策or結論→不要

解決策or結論の吟味→不要

 

■答案

議論の整理→「星を継ぐもの」の概要と魅力

1981年に第12回星海賞外長編賞を受賞したSF小説界の名作「星を継ぐもの」はSFを普段読み慣れていない私に衝撃を叩きつけた一作であった。本作は月で赤い宇宙服をまとった五万年前の人間の死体が発見されたというセンセーショナルな事件から始まっていく。物語の主人公であるハント博士はトライマグニスコープと呼ばれる物質を透過させる装置を発明した人物であり、ある日突然、国連宇宙軍本部長のコールドウェルに呼び出される。そこで向かった先にいた問題こそが先ほどの月で発見された人間そっくりの死体であった。チャーリーと名付けられた彼はいくつかの所持品も備えており、それらの分析からハント博士は彼の謎に迫っていく。この時点では彼の出自の謎について説いていく王道のストーリーに思えたのだが、物語が進むにつれて謎は増えていく。一つ新たな発見がある度にまた一つ新たな矛盾が生まれていくストーリー構成には次の展開が全く想定できず、どのような締めくくりになるのであろうかと懐疑的になるほどであった。チャーリーの肉体構造自体が明らかになるとそれが人間とは異なった作りであることが判明し、彼が人間か宇宙人かという初めから議論されている主題に一つの答えが導き出される。ここから月で発見されたチャーリーは仮定として人間との区別のためルナリアンという種族として調査が続けられる。そんな中彼が持っていた手帳らしきものから独自の言語が発見されるのだが、その発見により白熱していた議論はいよいよ混乱を極める。なぜならばトライマグニスコープによってその解析を進める中でそれがカレンダーや地図であることが判明するのだが、そこで示されていたものは現在の地球の暦法や太陽系とは異なるものであったためだ。その手帳の記録からするとチャーリーが生きていた時代の宇宙には水星金星地球火星木星土星天王星冥王星海王星の他にもう一つの星ミネルヴァと呼ばれるものがあった事が発覚する。そもそもの時代的前提が誤っていたことにこれまでの議論が白紙に戻ろうかとしていたところ、木星の衛星であるガニメデにて今度は宇宙船が発見される。ここから事態は急展開を見せていくのだが、先にばらまかれていた謎の数々が見事一つの道筋を辿っていく様は圧巻としか言いようがない。発見された宇宙船からはなんとマンモスを始めとした地球生物のミイラが大量に発見される。こちらはルナリアンとは異なり人間とは明らかに違う特徴を備えていたためガニメアンという種族として議論が進められていく。ここまででルナリアンとミネルヴァ、ガニメアンと三つの謎的要素が揃い踏みになるのだが、その関連性をつかむ糸口は中々現れない。このように本作ではSF作品ならではの作者が世界観の為に作り上げた壮大な嘘が新規の情報として散りばめられているのだが、ハント博士が議論に詰まる度に整理を行ってくれるため読者は共に謎を追っているかのような気持ちで読み進めることができる。その作品を形作る嘘自体も数年前に絶滅したネアンデルタール人の謎や表と裏で異なる月面状態など、事実に基づいた内容が混ぜ込まれているため、仕掛けられた作品としての嘘があたかも真実であるかのような緻密さを作り出している。そして三つのピースが出揃った時、ハント博士はこれまでの全ての謎が解決する一つの大胆かつ斬新な仮説を打ち立てる。それこそガニメアンはかつて太陽系に存在していたとされるミネルヴァの住人でありガニメアンはミネルヴァ人であったという仮説である。さらにそのミネルヴァはかつて生命絶滅の危機に瀕しており、そこで生態系を立て直そうとしたミネルヴァ人は当時多くの生命が繁栄していた地球に目を付ける。目論見通り地球から様々な生命を運んだ彼らはミネルヴァで新たに生態系の構築を試みた。先に見つかった宇宙船の中のミイラ達はまさにこの生態系を確立する為の地球からの輸入品である。しかしこのミネルヴァ人の試みは頓挫してしまい彼らは母星であるミネルヴァを脱出することになってしまう。そこでようやく登場するのが物語の始まりであるルナリアンの存在だ。ハント博士は、ルナリアンがミネルヴァに残された地球からの輸入物である原人が支配者のいなくなったミネルヴァで進化した結果だと仮定した。ルナリアンが人間の祖先であったという仮説に立ち返ったのである。そして更に残されたミネルヴァで文明発展を遂げたルナリアンは抗争を起こしミネルヴァを破壊させてしまう。その散り散りとなった結果が火星と木星の間に存在する小惑星帯であるとした。ここで追加して説明される仮説こそ本作を名作たらしめたといっても過言ではない壮大な仕掛けである。それはかつてミネルヴァには衛星が存在し、その衛星こそ我々が地球から見上げている月そのものであるという仮説であった。ミネルヴァが破壊された後その衝撃で宇宙をさまよった月は、偶然地球の衛星軌道にはまる。そして月に残っていたわずかなルナリアンは突如頭上に現れた地球に最後の生存の望みを賭け移住を決意したのであった。ここでは最後に現在の謎とされているネアンデルタール人絶滅の理由にも言及していく。高度な文明を持ち戦闘的であったルナリアンが、降り立った地球で進化を遂げていたネアンデルタール人を壊滅させホモサピエンスとして新たな進化を刻んでいき現在の我々に繫がっていったというのが本作での最終的な着地点であった。この謎を回収しつつはるか五万年前から現在に至る仮説の展開は、これまで共に謎を解いてきた読者に息もつかせぬ怒涛のラストであった。更にこの仮説によってタイトルである「星を継ぐもの」が現在を生きる我々自身であると判明する。このエンターテイメントに富んだ終幕にはこれまで興味の薄かったSF作品に一気に興味を抱かされた。本作においてこの超絶的なラストの展開を評価する声は多い。しかし私は本作で最も印象に残ったのは、物語の始まるプロローグと物語が完成してからのエピローグであった。プロローグでは絶望的な状況下にあると思われる二人の男が描かれる。重装備の戦闘服を着た巨人コリエルと始まりから意識がはっきりとしていない赤い服を着た相棒だ。荒廃した土地でどうやら彼らはゴーダと呼ばれる場所に向かって歩いており何らかの希望が彼ら二人にかかっていることが窺える。しかしその相棒である男はコリエルの励ましも空しく途中で完全に意識を失ってしまう。そこでコリエルは近くの洞窟に彼を寝かせてできるだけ楽な姿勢をさせてやり食糧を手の届く所に置き先に進むことを決意する。その時に相棒が微かに目を開いていることに気付くが二人はこれが最期の別れになることが分かっているようだった。そして覚悟を決めて歩きだしたコリエルが宇宙に向かって放つ印象的なセリフがこれだ。『ようし、これで貴様とおれの一騎打ちというわけか、え?』『いいだろう、罰当たり目が……やれるものならやってみろ』そうして再び険しい斜面を登っていく彼の描写を最後に物語は突如転換し主人公であるハント博士の描写に映る。ここで私は恐らくこのプロローグが物語において大変重要な鍵となるであろうことを悟ったのだが、チャーリーの早速の登場により先ほどの人物のどちらかであろうという安易な解決に走ってしまった。しかしその解決によってプロローグの場面が五万年も前の情景であったことに多少の高揚を覚え、彼らの刹那的に描き出された緊張感のある場面の状況に興味を抱き始めたのである。更にそこから物語が結末を迎えて締めくくりに描かれるエピローグは圧巻の一言だ。生物学者としてハント博士と共に謎を解明したダンチェッカーによる、仮説を一つの物語として語り切る熱量のある演説で物語は幕を閉じる。そこからまた場面は転換しスーダン北部でジュネーヴ大学古生物学科の教授と学生らが発掘に精を出しているところに切り替わる。学生らの出土品を確認していた教授はその中に奇妙なものを見つける。それは手首にはめる帯が付いた超小型ディスプレイ装置のようなものであり帯に見たことのない文字が彫られていた。腐蝕の跡が全く見えないそれを教授はがらくただとして川に投げ捨ててしまうのだが、そこから投げ捨てられた出土品の描写が最後に少しばかり描かれる。『斜面の下の川岸では、ぬかるみに落ちたリスト・ユニットが数秒置きに寄せて来る漣に前後に揺られ、そのたびに落下した時の微妙なバランスは失われて行った。やがて、それを支えていた砂の畝が流れに洗われて、リスト・ユニットは窪みに嵌まり、濁った急流の底にめり込んだ。日がとっぷりと暮れる頃には、ケーシングは半ば川底のシルトに埋もれていた。翌朝、窪みはなくなっていた。僅かに、小刻みに波立つ流れの底に、帯の一端が突き出ているばかりだった。帯に彫られていた文字は、翻訳すれば〈コリエル〉と読めたはずである。』この淡々と綴られた最後の一文はここまで物語を読み進めてきた者にようやく明確な答えを提示してくれている。すなわちプロローグに登場したコリエルは月から地球への移住に成功していたという事実だ。この冒頭のプロローグから一見関係の内容に見えるエピローグを繋ぐ流れはまさにハント博士が紆余曲折を経て辿り着いた仮定を起こった真実として上書きしてくれている。読み方によってはもはや本作の本筋はこのプロローグとエピローグで完成されており、本章自体はその二つを事細かかつ壮大に肉付けした補足であるとも受け取れよう。この演出の巧みさこそまさにSF作品の金字塔たる所以であり、SF作品の可能性を最大限に拡大させた作者ジェイムズ・P・ホーガン功績である。SFはいかに科学的根拠に基づいて裏付けられた仮想に現実味を加えるかが要になってくるが、本作はこの計算し尽されたプロローグとエピローグによって歴史的な新事実に出会ったかのような衝撃を受けることができるのだ。

 

(計4026字)

引用:「星を継ぐもの」ジェイムズ・P・ホーガン著,池央耿翻訳(創元SF文庫)

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