上智大学 総合人間科学部 社会福祉学科 レポート等特定課題 2019年 小論文 解答例

■設問

現代において社会福祉の果たす役割がますます重要になっています。その理由についてまとめ、あなたの考えを述べなさい。なお、そのときに参考にした社会福祉についての専門的文献を明記すること。

 

■答案構成

議論の整理→現代における社会福祉の意義

問題発見→社会福祉の担うべき課題とは何か

論証→児童福祉と高齢者福祉の抱える課題

解決策or結論→ベーシックインカムにみる社会福祉の可能性

解決策or結論の吟味→不要

 

■答案

議論の整理→現代における社会福祉の意義

社会福祉とは生活困窮者や心身の障害を持つ者への支援や援助を目的とした公的サービスのことを指す。しかし今日では個人の持つ基本的人権に基づき行われる教育や医療、所得水準の向上など生活問題の解決へ向けた社会的な方策による活動のことも指している。

問題発見→社会福祉の担うべき課題とは何か

現代において社会福祉は国内政策の一つとして再度重要視され始めている。その理由として経済成長が停滞の一途を辿り所得格差が広がりつつある日本では、少子高齢化社会も進む中で児童福祉問題や高齢者問題が浮上し始めている。その問題の背景には必ずと言っていいほど貧困が存在している。これらの社会的課題の解決のために、広く生活水準の向上を目指す社会福祉の果たす役割がいかに重要になってくるのかが理解できるだろう。では現在起こっている社会福祉の担うべき課題とは何であろうか。

論証→児童福祉と高齢者福祉の抱える課題

まずは児童福祉問題に着目していきたい。児童福祉において特に近年大きく問題となっているのが待機児童の存在である。待機児童とは保育所や学童保育施設に入所を希望しているにも関わらず、保育所不足やドーナツ化現象による人口比率の崩壊により入所がかなわず、入所待ちをしている状態の児童のことを指す。この背景には女性の社会進出と共に共働き世帯や一人親家庭の増加があるが、その前提としてやはり所得の苦しさが挙げられる。当然だが子育てをしている間は保護者に所得は発生せず、その上子育てに対しては新たなコストが発生してくるため、何かの補助がない限りは一方的に出費がかさみ続けることとなる。これがもし保育所に入所させられたのであれば、それだけで保護者の労働時間が確保され世帯収入は増加する。また社会的な観点においてもこれは労働力の増加に繋がり大きく見れば現在停滞する経済成長への歯止めともなる。少子高齢化社会において女性の労働力は国家にとっても見過ごせない支柱の一つだ。そのため今日までも待機児童問題においては様々な政策が為されてきた。1994年エンゼルプランとよばれる子育て支援施策が制定され、ニーズに合わせた保育サービスの拡充や保育料の適切化などが謳われた。続く2001年には待機児童ゼロ作戦が制定され、本格的に待機児童問題への取り組みが推進される。しかし2008年に新待機児童作戦が再制定されたように政策としての効果はなかなか表面化してこなかった。この裏に隠れているのが保育を行う保育士側の貧困問題だ。保育士は従来手書きの連絡帳やイベント毎のグッズ作成などアナログな手法によって保育を行ってきたが、情報化が進み保育所に対し児童が殺到している現在においてもその手法は変わらないといった問題が存在している。更にこういった勤務外の時間の確保も必要になってくる長時間労働に対しての所得が平均的な相場に比べて著しく低く、耐え切れずに離職してしまう者が多いのも現状である。では児童待機問題における社会福祉の役割は何だろうか。それは待機児童を抱える家庭と待機児童の受け入れ先となる保育所にいる保育士双方への生活水準の底上げではないかと私は考える。現在までに行われた数々の政策も一理あるが、どちらも待機児童そのものに向けた改善策でしかなく、その背景である家庭と保育の経済状況や生活環境に手を差し伸べている施策とは言い難い。個人や家庭の生活問題の解決を根本に据えることで、結果的な児童福祉問題への解決が為されるのではないだろうか。

続いて取り上げたいのが高齢者問題である。高齢者問題とは65歳以上の老年期に関する社会問題の総称であるが、その問題は児童福祉問題とリンクするところが多くみられる。大きなところで言うと、介護問題が挙げられる。爆発的に増え続けている高齢者の中で、要支援・要介護認定を受けているにも関わらず施設に入居させる為のコスト不足や介護に携わる従業員の不足が介護難民を発生させている。そしてその先に新たに生じる問題が、老老介護や認認介護の問題だ。老老介護とは介護する側もされる側も65歳を超えている介護状態のことであり、認認介護はそれが両者とも認知症であるケースを指す。この背景には医療の進歩による高齢化社会の現状や家族形態の変化でも顕著であった核家族化が潜んでいる。すなわち親子のみで暮らす核家族は子供が結婚をせず家を出なければ容易に将来的な老老介護の可能性を上昇させることに繫がり、生涯未婚率の上昇が叫ばれる昨今に紐づいてこれは切実な社会問題となっている。更にこの生涯未婚率の上昇や子供が独立しない状況には、所得問題が同様の背景として潜んでいるだろう。とはいえ高齢者にとっての所得は殆どが年金に依るところが大きい。ではその年金の受給形態は現在どのように展開しているのだろうか。現在年金には厚生年金と国民年金が存在し、既定の年齢になると老齢年金として支給が開始される。現在の平均額では老齢厚生年金が15万円前後、老齢基礎年金は5万前後となっており夫婦での平均受給額も20万円を超えてはいない。日本の厚生労働省所管の国立研究開発法人である国立研究開発法人国立長寿医療研究センターによると高齢者が一ヵ月生活するのに必要な費用は10万から13万程度とされており、先述した年金所得からこの費用を引いてしまうと殆ど手元に残らないことが分かる。事実介護問題は多く貧困層が直面している問題であり、ここでも社会福祉の必要性が迫られている。もちろん少子高齢化が進む日本社会において高齢者問題解決のために社会的な政策は多く為されてきた。1989年には来たる高齢化社会に備えて寝たきり老人ゼロ作戦などを含めた高齢者保健福祉推進10ヵ年戦略としてゴールドプランが策定される。これは前年1988年に示された長寿・福祉社会を実現するための施策の基本的考え方と目標についての整備目標を踏まえ作成されたもので、ホームヘルパーやデイサービスなど在宅福祉を強化する傾向が極めて大きく提示されていた。しかしそこから予想を上回る高齢化の波を受け、1994年には新ゴールドプランとして在宅介護における数値目標が明らかにされる。新ゴールドプランが計画通り5年間で終了されると続く福祉目標として1999年のゴールドプラン21が発表された。こちらでは従来の在宅福祉のみならず、地域や社会からも支える基盤づくりという新たな福祉改革の面も追加されている。こうした高齢者福祉の必要性を受け2000年に「介護保険法」が定められる。この介護保険制度の登場により、老人介護はようやく公的社会保険によって行われることとなるのである。しかしこちらもまた児童福祉問題と同じく制度や環境の整備に終わっているため、背景となる高齢者や高齢者を抱える家族の所得水準の課題にまでは言及されていない。結果として高齢者福祉を受けられない貧困層はしばしば心中問題や介護殺人などの悲劇的な結末を迎えてしまう。一方、高齢者問題を雇用改革から是正しようという動きも存在する。高齢者問題には社会的観点からみると国家全体としての労働力の低下という側面を抱えている。そのため雇用改革の見直しの一歩として、定年の引き上げや継続雇用制度によって高齢者の雇用機会を安定させる「高年齢者雇用安定法」では2013年に改正が施された。これにより企業は60歳を迎え定年となった者がいたとしても希望があれば65歳までの継続雇用制度の導入を義務付けられた。しかしこの改正には企業への影響が度外視されており、給与や雇用形態を変更せざるを得なくなった企業は少なくない。そうであるならば一長一短の改革ばかりに終始する高齢者問題の解決の糸口は、一体どこにあるのだろうか。

解決策or結論→ベーシックインカムにみる社会福祉の可能性

私はここで近年注目されているベーシックインカムを新たな社会福祉の切り口として説いていきたい。ベーシックインカムとは最低限所得保障と呼ばれる社会保障の一種で就労状況や資産の有無に関わらず、無条件で国民の一人一人に最低限に必要とされる所得を給付するという社会政策である。この政策のメリットには国民の所得水準や生活水準の改善はもちろん、無条件という大胆な構想により行政コストの削減にも繋がると考えられている。なぜなら就労状況や資産状況を問わないとするこの条件は個々人への状況確認や審査の手間を一切必要としないため、これまでの社会保障では必要とされてきた相談窓口や要求するための手続きを設置する必要が無い。よって行政側のコストはベーシックインカムの給付のみに留まり、非常に簡潔な管理システムでの運用が可能となる。また世帯ではなく個人を単位とするベーシックインカムの制度は、子供が多ければ多いほど当然支給額が増加していくため少子化を食い止める有効な対策ともいえる。更に無条件で支給されるこのシステムは、先述した児童福祉における家庭や保育士など貧困層を救う手立てともなり老老介護や認認介護を減らす足掛かりにもなると考えられる。まさに社会問題の背景に必ずといって存在する所得へのダイレクトな解決策こそ、このベーシックインカムといえよう。今日までにこの政策は世界各地で実験的に施行されている。フィンランドでは2017年からの約1年間、失業手当受給者から2000人を無作為に選びパイロットプロジェクトが行われた。結果として雇用促進には至らなかったが、幸福度や健康面で非常に大きな効果が見られている。この結果から決定的な社会福祉への打開策とはならないという意見も強まってはいるが果たして本当にそうであろうか。今回取り上げた例でいうと待機児童を抱える家庭に月7万円の社会保障費が支払われたとする。すると起こり得るのは保育所への入所だけではなく専業主婦への転換やパート仕事の条件の柔軟化である。つまり無条件で支払われるベーシックインカムの本来の意義は個々人への幅広い選択肢の提供にある。現在核家族化や少子高齢化が進み所得水準が低迷する日本において、コストの少ない所に選択が集中するのは当然の帰結であろう。そこに社会福祉として発生するベーシックインカムの導入は、多様化し変容している個々人の在り方や世帯状況において選択の自由を広げる糸口と成り得る。このようにして現在様々に勃発している社会的問題を解決する糸口の始まりには、最低限の保障から始めていく社会福祉の存在が重要になってくるといえる。

 

(計4153字)

《参考文献》

阿部彩(2008)『子どもの貧困―日本の不公平を考える』岩波書店.

大畑陽平(2012)『現代社会における保育所入所待機児童問題』<http://archive.kyotogakuen.ac.jp/~o_human/pdf/association/2012/m2012_01.pdf>2019年2月15日アクセス.

内田樹編(2018)『人口減少社会の未来学』文藝春秋.

戸田典樹(2018)『「介護殺人」、「介護心中」に歯止めをかけられない現代の介護保険制度の問題点を考える』<https://kobe-shinwa.repo.nii.ac.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=repository_action_common_download&item_id=2585&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1&page_id=13&block_id=39>2019年2月17日アクセス.

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