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年中無休の家庭教師 毎日学習会

慶應義塾大学 経済学部 小論文 2008年 過去問

2008年 慶應義塾大学 経済学部 小論文 課題文

次の背景と課題文を読んで設問A、Bに答えなさい。解答は解答用紙の所定の欄に横書きで記入しなさい。

[背景]

 北海道の旭川市旭山動物園は日本で最北端に位置する公立動物園で、一年の半分近くを雪に閉ざされ、交通のアクセスも決していいとは言えない。レジャーのあり方が多様化した1980年代以降全国の動物園は入場者数を減らし始めた。旭山動物園も例外でなく、1983年に年間入園者数が59万人とピークに達したが、それ以降増えることはなく、1996年には過去最低の26万人にまで落ち込み、閉園の話もささやかれるようになった。しかし、飼育係が一丸となってアイディアを出し合い、試行錯誤をした結果、2004年には年間145万人も来園するようになった。

[課題文]

 「旭山動物園には、上野動物園のように、パンダなどの珍獣がいるわけでもないのに、どうしてこれだけの人気が集まったのでしよう」よくそんな質問を受ける。

 ペンギン、アザラシ、ホッキョクグマ、オランウータン、ニホンザル、ゾウ・、旭山動物園にいる動物は、どこの動物園にもいる種類だから、そういう質問がでるのも当然といえば当然だろう。

 質問に対する答えを一言でいえば、「見せ方を工夫したから」である。それまで動物園は、動物の姿形を中心に見せてきたが、その方法を根底から変えたのだ

 見せ方と言っても、動物に「曲芸」をさせるわけではない。「曲芸」をさせて、「お上手、お上手」と喜んだとしても、人はその動物を尊敬するわけではない。無理やりさせられているとしたら動物は辛いだろうし、その動物の素晴らしさを伝えることにはならない

 私たちが何よりも優先して考えたのは、その動物にとってもっとも特徴的な能力を発揮できる環境を整えることである。人間にたとえれば、ボールを遠くに投げる能力のある人にその能力を生かせる環境を与える、歌の上手な人には、その歌声を披露できる場を提供する。

 たとえば、職場でいえば、計算が速く正確な人にはその力を発揮できる仕事を与える、語学ができる人にはそれが存分に生かせる仕事を任せる・・・・・・といったことと似ている。

 人間でも、自分が誰にも負けない能力を発揮できる場を与えられて、それを人に評価されれば、そんな備しいことはないだろう。勉強でも、運動でも、仕事でも、もっとやろう、もっと上手くなりたいと思ってますます能力を高めていくだろうし、イキイキしてくるはずである。

 動物も同じだと思う。ほかの動物にはない、自分だけが持つ能力を発揮できる環境を提供されたいのだ。

 ペンギンはただ歩かせると人間よりも遅いし、ョチョチ歩きで、どことなく頼りない。しかしいざ水中に入ると、驚くほどのスピードで、まるで空を飛んでいるように泳ぐ、ペンギンは空を飛べない鳥の代表だが、水中トンネルではやはり鳥類なんだなと改めて納得する。

 ホッキョクグマは、その迫力と泳ぐときの毛並みの美しさが特徴だ。ほっきょくぐま館には大きなプールがあり、ときには透明なガラス越しに見える人間をめがけて飛び込む瞬間を目にすることができる。ちょうど見ている人の目線に飛び込んでくるので、その迫力に思わずのけぞる人も多い。

 アザラシは泳ぎが上手い。あざらし館の透明な円柱トンネル(マリンウェイ)では、その秘密がよくわかる仕組みになっている。これまでの動物園では、アザラシは水槽の上からしか見ることができなかったので、どのようにして泳いでいるのかがわかりにくかった。しかし円柱トンネルをつくることで、三六○度、あらゆる角度からアザラシが泳ぐ姿を観察できるようになったのである。

 あるとき、アザラシを研究している人が婿しい感想を手紙で寄せてくれた。研究者自く、「これまでアザラシが泳ぐとき、どのようにして足を動かしているのかわからなかったのですが、旭山動物園に来て初めてその動きが解明できました」。(中略)

 まず、「動物園とは何をするところなのか」といった動物園の存在意義の確認から始めた。

 動物園というのはレクリエーション、つまり娯楽施設だと思っている人が多いだろう。しかし、厳密に言えばそれだけではない。詳しくは、後述するので、要点だけを紹介すると・・・・・・

 「動物たちと一緒の楽しい時間を過ごし、その中で動物たちの素晴らしさを感じてもらい、それがきっかけとなって、『動物たちを保護したい』、あるいは『動物の生きる地球環境を守るためには,何をすべきなのか』などを考える意識を育てる。また、動物園は、『希少動物の保護・繁殖』に関わり、さらには、野生動物医学など、『学術研究の場』でもある」

 ということになる。

 整理すれば、「レクリエーションの場」「教育の場」「自然保護の場」「調査・研究の場」の四つの役割がある。

 こうした「動物園に携わる者としての基本スタンス」は、いまでも朝礼や勉強会など、さまざまな機会を使って、徹底し、確認している。極端にいえば、その基本に関して、飼育係が共通認識を持っていれば、あとはそれぞれの飼育係に考えさせる。それをうまく動物園づくりに生かしていけばいいのだ。

 動物園の役割を果たすには、まず、人に来てもらわなければ始まらない、かといって娯楽性が強すぎたり、動物に「芸」をさせてしまったのでは、動物園の本筋からは外れてしまう。、飼育係は知恵をしぼりあった。前述した「動物園とは何か」というテーマを踏まえて、「われわれは何をしなければならないのか」、「動物たちを通して何を見せ、何を訴えるべきか」、そして「動物たちに何をするべきか」といったテーマを根本から考え、理論構築していったのである。

 私を含め、飼育を担当している者にとって不思議でならなかったのは、一般の人が園内の動物を見てもつまらないという感想を抱くことであった。飼育をしていると、その最中に見せる動物の表情や行動は、面白くて仕方がない。私自身、動物園に就職してほんとうによかった、こんなに面白いことをして、給料をもらっていいのかと思ったほどだ。なのに、「つまらない」という感想を抱くことが信じられなかったのである。

 彼らの持つ迫力や運動能力は素晴らしい。就職して間もないころのこと、アムールヒョウから洗礼を受けた。初めて夜警を任されたときだ。先輩の飼育係と二人で回った。何事もなくアムールヒョウの寝室まで来ると、いない。おかしいなと思った次の瞬間、下からバーンと跳び上がってきた。十センチぐらいしか離れていない小さな窓にあのヒョウの顔と口が突然現れたのだ。思わず「ワーッ」と大声を上げていた。ほんとうに驚いた、といってもその恐ろしさは伝わらないかもしれないが、とにかく肝をつぶした。一緒にいた先輩は横で喜んでいたが・・・・・・。(中略)

 野生動物は、迫力ばかりではない。私は、知的な部分をいくつも目にしてきた。たとえば、水の飲み方一つでも、動物によって違うのだ、テナガザルは、手指の第二関節の甲の毛に水をつけ、それをしゃぶるようにして飲む。チンパンジーは、木の葉を細かく折りたたんでから水につけ、水をすくい取って飲む。このように、それぞれの体の特徴を生かしたり、生息環境に合わせながら、目的を達成するための知恵を持っているのだ

 これはほんの一例で、それぞれの動物は皆、素晴らしい能力を持っている。そんなふうに自分の経験を振り返っていたとき、ふと思った。入園者に、飼育係と同じ「距離」で動物を見せるのは難しいけれども、もっと動物と人の「距離感」を縮められないかと。

 そこで出されたアイディアの一つが、動物舎の前で、自分が担当する動物の説明を入園者に向かってするということだった。これが「ワンポイントガイド」だ

 なにしろ、それぞれの動物を誰よりも知っているのは、飼育係なのだ。その一端を披露するだけで、面白いガイドになるはずだった。

 しかし、肝心の飼育係の中には不満を口にする者もいた。「自分は口下手だから飼育係になったのに、しやベるのは嫌だ」とか、「説明するのは飼育係の仕事ではない」と言うのだ。

 彼らの気持ちは理解できた。しかし、当時のわれわれにとって、一人でも多くの「フアン」を増やすことがなんとしても必要だった。このまま入園者数が減れば、動物園に無駄遣いをするなという声が市民からも上がるかもしれない。しかしそうした動きを食い止めてくれるとしたら、おそらく動物園のファンになってくれた市民であろう。

 これからやろうとしていることは、大道香具師に比べればはるかに楽なはずである。大道香具師は興味のない人を引きつけなければならないけれども、こちらは興味を持って来園してくれた人に話しかけるからだ

 半年間、話し合った結果、みんなが納得してくれ、ワンポイントガイドはスタートすることになった。

(小菅正夫著『く旭山動物園〉革命』角川書店2006年より抜粋。)

[設問]

A 閉園の危機に陥っていた旭山動物園ではどのような対策をしたのか、課題文をもとに2つ挙げ、それぞれの対策の問題点を指摘しなさい。以上を300字以内で書きなさい。

B. ある市には動物園がまだありません。そこで市立動物園を新設することを検討しています。あなたがこの市の職員だとして、市立動物園新設について市民が賛成してくれるように訴える文章を書くことになりました。課題文のみにとらわれず、あなたの考える根拠も含めて、行政側から市民を説得する文章を300字以内で書きなさい

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