慶應義塾大学 経済学部 入学試験 1999年 小論文 解答例

■ 設問

次の2つの課題,課題αと課題βのなかから1つを選び,解答しなさい。

課題α

以下の文章は,フランスの文人で思想家でもあるポール・ヴァレリーが1919年に書いたエッセイ『精神の危機』から抜粋してまとめなおしたものです。20世紀末の現代からみて,あなたはこの文章が提起する問題をどのように考えますか。この文章の内容に関連する論点をみつけ,それについて800字以内であなたの見解を自由に述べなさい。なお,自分の論述の論旨を,解答用紙の指定された欄に80字以内で書くこと。

 

課題β

以下の文章は,イギリスの哲学者,思想家として著名であったバートランド・ラッセルが1929年に出版した『結婚と道徳』からの自由な抜粋である。この文章を素材にして,「現代社会における男女の愛の理想的なあり方について」という主題で,あなた自身の見解を800字以内で述べなさい。なお,自分の論述の論旨を,解答用紙の指定された欄に80字以内で書くこと。

 

課題α

■ 答案構成

答案の軸を定めるためのフレームワークとして< 5-STEP >を利用する。なおこの設問は2つの小問(「この文章が提起する問題をどのように考えるか」と「この文章の内容に関連する論点をみつけ,それについて見解を述べなさい」)に分けられることに留意したい。

議論の整理→ 「この文章が提起する問題」を「欧州の優位性」とみて,それに対する考えを述べる.欧州の優位性は第一次大戦で完全に失われ,アメリカが欧州にとって代わった史実に基づいて欧州の劣化を詳述する方針で記述する.

問題発見→ 「この文章の内容に関連する論点」については,「白人優性論」と定め,それに反対する見解を述べる.

論証→ ×

解決策or結論→ ×

解決策or結論の吟味→ ×

 

 

■ 答案

議論の整理→ 「この文章が提起する問題」を「欧州の優位性」とみて,それに対する考えを述べる.欧州の優位性は第一次大戦で完全に失われ,アメリカが欧州にとって代わった史実に基づいて欧州の劣化を詳述する方針で記述する.

現代の目線でみれば,ヴァレリーの指摘どおりヨーロッパの優位性は失われていることは明らかである。むしろ第一次大戦以降は劣化し続けているといってもよい。もはや文化や知性の中心でもなければ,科学や技術の中心でもない。戦禍にまみれた過去への反省から欧州統合という壮大な社会実験を続ける努力は評価できる。しかし欧州最強の経済力を誇るドイツですら中国資本に依存している惨状やイギリスによるEU離脱問題などを鑑みると,まず劣化を止めることが最優先であり,巻き返して優位性を回復するには程遠いといわざるを得ない。近年はさらにその上に社会的混乱の元凶である移民問題が重くのしかかっている。

第一次大戦直後の1919年当時,ヴァレリーがヨーロッパの優位性喪失を“予言”したのにも無理はない。ヨーロッパを舞台とした多国間戦争で疲弊したヨーロッパをその目で見ているからである。そもそもヨーロッパにおけるエゴイズムの衝突は現代に限ったものではない。中世も近代もヨーロッパでは民族的・宗教的衝突,侵略による国境の変更,人や富の移動,国家・国体・国政の度重なる変転など,社会構造が極めて不安定であった。昔も今もヨーロッパは混沌としている。

 

問題発見→ 「この文章の内容に関連する論点」については,「白人優性論」と定め,それに反対する見解を述べる.

課題文にある,ヴァレリーの「人間の質がヨーロッパの優越性の決定因にちがいない」という「白人優性論」には違和感を覚える。欧州列強は欧州域内での衝突を避け欧州域外に富を求めて他国を侵略し続けた。その際,文明的・文化的衝突があれば力づくで相手をねじ伏せ搾取を繰り返した。すなわち欧州各国は他国の文明・文化を破壊することで相対的優位性を得たにすぎないのである。侵略者側に立つヴァレリーはその事実に気づいていない。ニュートンが万有引力の法則を発見したのは,彼が欧州人だからではなく,注意深く自然を観察する慧眼を持ち合わせていたからにすぎない。欧州を自然科学発祥の地と考えるのは実におこがましい。

 

論証→ ×

解決策or結論→ ×

解決策or結論の吟味→ ×

 

 

(論述の要旨)

かつての「欧州の優位性」はすでに失われており,第一次大戦以降は劣化している。欧州に根強い「白人優位論」は侵略と搾取による一方的な思い上がりに他ならない。(原稿用紙で76字相当)

 

現代の目線でみれば,ヴァレリーの指摘どおりヨーロッパの優位性は失われていることは明らかである。むしろ第一次大戦以降は劣化し続けているといってもよい。もはや文化や知性の中心でもなければ,科学や技術の中心でもない。戦禍にまみれた過去への反省から欧州統合という壮大な社会実験を続ける努力は評価できる。しかし欧州最強の経済力を誇るドイツですら中国資本に依存している惨状やイギリスによるEU離脱問題などを鑑みると,まず劣化を止めることが最優先であり,巻き返して優位性を回復するには程遠いといわざるを得ない。近年はさらにその上に社会的混乱の元凶である移民問題が重くのしかかっている。

第一次大戦直後の1919年当時,ヴァレリーがヨーロッパの優位性喪失を“予言”したのにも無理はない。ヨーロッパを舞台とした多国間戦争で疲弊したヨーロッパをその目で見ているからである。そもそもヨーロッパにおけるエゴイズムの衝突は現代に限ったものではない。中世も近代もヨーロッパでは民族的・宗教的衝突,侵略による国境の変更,人や富の移動,国家・国体・国政の度重なる変転など,社会構造が極めて不安定であった。昔も今もヨーロッパは混沌としている。

課題文にある,ヴァレリーの「人間の質がヨーロッパの優越性の決定因にちがいない」という「白人優性論」には違和感を覚える。欧州列強は欧州域内での衝突を避け欧州域外に富を求めて他国を侵略し続けた。その際,文明的・文化的衝突があれば力づくで相手をねじ伏せ搾取を繰り返した。すなわち欧州各国は他国の文明・文化を破壊することで相対的優位性を得たにすぎないのである。侵略者側に立つヴァレリーはその事実に気づいていない。ニュートンが万有引力の法則を発見したのは,彼が欧州人だからではなく,注意深く自然を観察する慧眼を持ち合わせていたからにすぎない。欧州を自然科学発祥の地と考えるのは実におこがましい。(原稿用紙で793字相当)

 

 

課題β

■ 答案構成

議論の整理→ 愛は精神的要素を含むもの

問題発見→ 現代社会における理想的な愛

論証→ 奔放な行動と純愛の精神

解決策or結論→ 結婚まで至る愛=「純愛」

解決策or結論の吟味→ 「純愛」が与える影響

 

 

■ 答案

議論の整理→ 愛は精神的要素を含むもの

イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは,著書「結婚と道徳」の中で,「文明人は,愛なしに彼らの性的本能を十分に満足させることはできない。その本能は,肉体的と同じくらいに精神的でもある」と言っている。また,「愛から切り離された性交はほとんど価値のないものであって,主として,愛を目指す実験行為と見なされるべきだ」とも言っている。これは,愛が肉体的欲求だけによるものではなく,精神的な感情を含むものであると述べている。

 

問題発見→ 現代社会における理想的な愛

では,現代社会における男女の愛の理想的な在り方とは,どんなものだろうか。

 

論証→ 奔放な行動と純愛の精神

現代社会において,結婚まで貞操を守り,一人の男性と一生添い遂げたいと考える女性はごく稀だろう。これは女性が男性とほぼ同等の地位向上を果たし社会進出したことで,男性と同等の恋愛感や性に対して奔放な考えを持つようになったことが要因の一つである。しかし,その反面,映画やドラマ,書籍における疑似恋愛的な観点からみれば,「純愛」ブームが繰り返され,一生に一度の究極の恋愛に対する憧れは,今も人々の心を捉えているのである。

 

解決策or結論→ 結婚まで至る愛=「純愛」

こう考えると,現代社会における男女の愛は,心の中に「純愛」への憧れを抱きつつも,その相手となるパートナーを自由な恋愛の形の中で探し求め,心と身体の相性を確認しながら,出会いや別れを繰り返す。そして様々な男女の形がある中で結婚にまで至るものは,やはり特別なものだと考えるべきである。つまり,結婚まで至った愛は,自由恋愛の中で他の誰でもなくその相手を選んだという,正に「純愛」に近い理想的な愛の在り方だと考える。

 

解決策or結論の吟味→ 「純愛」が与える影響

しかし現代社会では,結婚を躊躇する男女が増えている。その理由がどうであれ,結婚に至るの「純愛」が,時に人に生きる活力を与え,時に生きる目的となることもあると再考すべきと考える。

 

 

(論述の要旨)

現代社会においての恋愛は男女問わずより自由に奔放になったが,それを経て結婚に至る「純愛」は,特別なものであり,理想的な愛のあり方であると考える。(原稿用紙で72字相当)

 

イギリスの哲学者バートランド・ラッセルは,著書「結婚と道徳」の中で,「文明人は,愛なしに彼らの性的本能を十分に満足させることはできない。その本能は,肉体的と同じくらいに精神的でもある」と言っている。また,「愛から切り離された性交はほとんど価値のないものであって,主として,愛を目指す実験行為と見なされるべきだ」とも言っている。これは,愛が肉体的欲求だけによるものではなく,精神的な感情を含むものであると述べている。

では,現代社会における男女の愛の理想的な在り方とは,どんなものだろうか。

現代社会において,結婚まで貞操を守り,一人の男性と一生添い遂げたいと考える女性はごく稀だろう。これは女性が男性とほぼ同等の地位向上を果たし社会進出したことで,男性と同等の恋愛感や性に対して奔放な考えを持つようになったことが要因の一つである。しかし,その反面,映画やドラマ,書籍における疑似恋愛的な観点からみれば,「純愛」ブームが繰り返され,一生に一度の究極の恋愛に対する憧れは,今も人々の心を捉えているのである。

こう考えると,現代社会における男女の愛は,心の中に「純愛」への憧れを抱きつつも,その相手となるパートナーを自由な恋愛の形の中で探し求め,心と身体の相性を確認しながら,出会いや別れを繰り返す。そして様々な男女の形がある中で結婚にまで至るものは,やはり特別なものだと考えるべきである。つまり,結婚まで至った愛は,自由恋愛の中で他の誰でもなくその相手を選んだという,正に「純愛」に近い理想的な愛の在り方だと考える。

しかし現代社会では,結婚を躊躇する男女が増えている。その理由がどうであれ,結婚に至るの「純愛」が,時に人に生きる活力を与え,時に生きる目的となることもあると再考すべきと考える。(原稿用紙で741字相当)

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